55ノート6(デュシャン本翻訳)

55-9-2-P112

 オポジションに対抗するシスタースクエア、あるいはシスタースクエアに対抗するオポジションといった不和の根拠なき特性を、これ以上主張する必要があるだろうか?

 シスタースクエアの方法は、本質的に経験上の秩序を検分していくことであり、それぞれの陣地内で見つかったシスタースクエアを我々はひとつひとつパズルを解くように足す。
 
 オポジションの方はといえば(それがオーソドックスであれ、ヘテロドックスであれ)、両キングが占める2つのマスの一定の関係に規定されている。この一般的な法則はチェス盤のどの部分に位置するマス目にも公平にあてはまる。

 我々が打ち立てたのは、両キングの作る平衡関係であり、それは先験的で取るに足らない。

 単純にいえば、オポジションの概念をシスタースクエアにあてはめるのは、動詞を名詞として使うようなものである。
<In brief,one can use no more substitute the idea of opposition for that of sister squares than one can use a verb(to oppose) for a noun(similar mosaics).>

 かてて加えて、オポジション(オーソドックスでもヘテロドックスでも)を使って、またはシスタースクエアの占拠によって得られるのは引き分けでしかない。

 したがって、勝つためにはオポジションの打破をせねばならない。アドバンテージを戦術的に利用するための領域への侵入、あるいは位置の変化を一般化するのは困難である。
 
 ということで、我々が強調しておきたいのは、オポジション(オーソドックスでもヘテロドックスでも)もシスタースクエアもほぼ必ず必要ではあるが、勝利をもたらすには決して十分な状態ではないということである。


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<いとう註・これでデュシャン、ハルバーシュタットの奇妙な研究書は終わる。 
 途中、どうしても訳しきれない部分があり、何ヶ月もほったらかしておいたのだが、さすがに解決しそうもないので、今回は原文(英訳部分)を載せました。

 オポジションとシスタースクエアを区別し、なおかつ有効に使うというのが本書の趣旨でだったはずなのだが、それでも最後に言われるのは「得られるのは引き分けでしかない」、「勝利をもたらすには決して十分な状態ではない」という結論である。

 チェスにとって、それは異常な事態ではない。
 将棋に慣れた日本人にとってのみ、この肩すかしのような結末が奇怪に映る。

 しかし、そうだとしても、デュシャン特有の「無関心」に、こうしたチェスの“勝ち負けの他に引き分けが重要視される”感覚が関係しているように思われる。勝負は宙づりとなり、物語は永遠に休止し続けるのだ。そうした未決定を受け入れる態度は、デュシャンが作品、あるいは人生に対してとった姿勢とよく似ている。

 観客と作品内部がオポジションを取り続け、しかしそれを打破する手段を双方持ちそうもない『遺作』は、この「ドロー」の状態、あるいは観念をテーマ化したとも言えるかもしれない。勝負が決まらないまま、盤上には静かな緊張関係が続く。
 チェスの勝負でいえば、それは駆け引きの断絶となる。物語は強制的に断たれ、どちらが勝ったか決められないまま、ある意味では駒同士の力を保存して終わってしまう。
 あたかも一人の人間の死のように。

 ひとまず、これで僕の仕事は一段落した。
 このサイトが永遠に残るものとは考えていない。DRECOMブログがいつまでもあるわけでもなかろう。
 特に僕の「いとう註」はいつも直接ブログ画面に書き込まれたから、サイトが閉じてしまえば消えてしまう。
 しかしだからといって、わざわざ自分でプリントアウトなどして取っておく気もおきない。
 また考えるべきときが来たら考えればいい。盤面は常に変わらずある。
 
 ずいぶんと手間ひまかけて続けてきたデュシャン本の荒い訳だが、作業と同時に僕の中にも、ある種の無関心が生まれてきたようだ。

 ただ、『遺作』を考える必要に駆られた人がいれば、この益になるとも思えないチェス本が実は大きなヒントになるだろうことを信じて疑わない。

 日本のデュシャン研究は、数十年、この書物抜きに行われてきた。
 吟味なしに。>


 

 

55-9-2-P111-246

<移動1、2、3  二つの蝶番>

p111

 図246。
 二つの蝶番a8-h1、a7-g1は隣接している(移動1)。

 主要領域ABCDEFGHIJKLMは、折りたたみと移動1によって互いに重なる。

 黒の二次的領域(i、f、e、c)は横列上での二次的ヘテロドックス・オポジションによって得られる(Ii、Ff、Ee、Ccというオーソドックスな拡張)。

「解決」

 1 白キングb2で二次的ヘテロドックス・オポジションをとる(b2ーf7ーh7)。
 
   もしも1で黒キングがg8とくれば、次に白キングはa1として主要領域内でヘテロドックス・オポジションをとる。黒キングはこれを拒むことが出来ない。ドローになる。
246.jpg

55-9-2-P111-245

<移動1、2、3  二つの蝶番>

p111

図245。
「極の踏査」

 黒キングはb6、f3の極において白陣営に侵入しようとしている。白キングは黒陣営に入る道がない。

 両キングの位置は、
 極b6においては白キングがa5、黒キングがc6(X)。
 極f3においては白キングがe2、黒キングがg4(O)である。

 「最短距離」

 黒キングがc6に達するためのマス目はd7(A)で、白キングの最短距離上のシスタースクエアはb4となる(b5ではない)。

 白の最短距離はa5、b4、c7、d2、e2。
 黒の最短距離はc6、d7、e6、f5、g4。
245_1.jpg

55-9-2-P111-244

<移動1、2、3  二つの蝶番>

p111

 図244。
ここで、ドクターK.Eberszが最近出版した興味深い終盤戦の分析に、我々の結論をあてはめてみよう。

 白番でドロー。
 これは対角線上のヘテロドックス・オポジションで、移動1である。

 付記。
 わかるように、ドクターK.Eberszは本書内で取り扱ってきた問題と同じことを考えており、このエンディングの解決を我々の考えと比較することは興味深い。
244.jpg


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<いとう註:ここでは最終的に、最新の盤面分析にこれまでの論があてはめられる>

55-9-2-P110-243

<移動1、2、3  二つの蝶番>

p110

「縦列上のヘテロドックス・オポジション」

 図243。
四つ目のハルバーシュタットの盤面。縦列のヘテロドックス・オポジションで移動は3。同じ交わりが証明される。

 xyとpr(両Aの中央をつなぐ)は、第一の蝶番の同じS''点を通る。

 移動のある縦列上のヘテロドックス・オポジションにおけるこれら三つの例でわかるように、移動数が増えるごとに第一の蝶番上のS点は二分の一列ずつ右にずれていく。もちろん、黒の領域のマス目(ラスカー・ライヒヘルムではD、他の例ではA)はどのケースにおいても同じ縦列(A)の上にある。
243.jpg
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