55-9-2-P4-3

<オポジション>あるいはオーソドックス・オポジション

P4

 また、孤立したマス目を守るには、敵キングが前から攻撃してくるかどうかによって、3つもしくは5つの方法がある。図3。

03.jpg


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<O君註:黒が図面の+マークを付けたd7から、白キングの利きを排除する(孤立したマス目とする)には、dキング:
  ●Kd7もしくはKe7として白キングをすぐ追い払う。
  ●Kc7と待機して、白キングがd7への利きから離れるのを待つ(次に白キングはKd6とはできない)。
  ●Kc8と待機して、以下、Kd6 Kd7。
  ●Kc8と待機して、以下、Kd6にKb7とさらに待機して、以下、Ke6にKc7。
   以上,計5つの方法。
 eキング:
  ●Kd7、Ke7として白キングをすぐ追い払う。
  ●Kf7として、以下Kd6 Ke7、Kc6 Kd7として追い払う。
   以上,計3つの方法。
 fキング:
  ●Ke7として白キングをすぐ追い払う。
  ●Kf7として、以下Kd6 Ke7,Kc6 Kd7として追い払う。
  ●Kg7と待機して、以下Kd6 Kf7、Kc6 Ke7。
   以上、計3つの方法>


<いとう註:さて、難解なP4の最後の図版まで来た。ここで黒キングはd8にも現れ、+字はd7にだけ打たれている。図1からの流れを見れば、黒Ke8から黒Kf8、そしてKd8と左右両側に動いた3パターンの例が挙げられたわけである。ただし、それぞれに「同じ横列の3つ以上のマス目を守る」場合、「同じ縦列の、もしくは同じ横列の、隣り合った2つのマス目を守る」場合、「孤立したマス目を守る」場合、と防御の意識は多層的である。
 おそらく、図3は多層的な防御意識の中で、d7というマス目を死守するには……と考えた場合を示しており、黒キングがd8に入れば次に白キングがd6と対峙し、黒キングはそれをc8もしくはe8と受けて、あくまでもd7への利きを保持することになる。
 O君註では「Kd7」「Ke7」「Kf7」を黒キングの手として与えているが、これはe6にいる白キングからすれば自殺手ではないだろうか。もともとe8(図1)に陣取っていた黒キングは、d8かf8にしか動けない。この図3では一例として、d8に黒キングが入った場合を図示しており、白キングが自分の利きを手放さない対象はd7となる(白Kd6と攻撃の手をゆるめず)。
 もちろん、白Kd6となれば、白キングはc7d7e7を黒キングとともに支配する。だが、次に黒キングがc8に動いたとし、白がe7に侵入すると仮定する。となると、盤面の端に追いつめた黒キングを白キングは逃がしてしまうことになる。d7は互いに譲らないとしても、これはポーンエンディングにとって致命的なミスになる。自由になった黒キングは図の手前の領域へと動き出し、この図にはないが残った白ポーンを狙いに行くことは確実だからである。
 ポーンエンディングでは、互いのポーンが角を突き合わせて止まっている。ポーンは真ん前の駒を取ることが出来ず、斜め前の駒のみを奪うので、そのような凍りついた盤面が生じるのである。そこへ黒キングが動き出すのは危険きわまりない。ひとつでもポーンを取れば、ダムのようにせき止められていた盤面に急変化が起こる。邪魔な白ポーンを外された黒ポーンは、ぐんぐんと盤面手前の端に進み、到着した途端(将棋の駒が「成る」のと同じく)キング以外のあらゆる駒に変化してしまうからだ。最強の駒クイーンになれば、もはや黒の勝ちは確実となる。
 ということは、黒Kc8に対して白Ke7はあり得ない。僕程度の素人考えでも白Kc6とし、キング同士の対峙を狙い続ける以外ないのだ。これがオポジションの基本である。
 ただ、デュシャンとハルバーシュタットはここで「3つもしくは5つの方法がある」と言っている。図1ではたったひとつ、図2ではふたつ、そして図3で孤立したマス目のみを守るとなると「3つもしくは5つ」。これが非常に難しい。おそらく、「敵キングが前から攻撃してくるかどうかによって」が重要なポイントであり、白Kd6か白Kf6かによって、黒の手は限られながら増えるということだろう。
 基本はあくまでも図1の黒Ke8。もし白Kd6なら、黒Kd8か黒Kf8、あるいは黒Kf7と上がって抜け出す。ここには3つの動きがある。
 また白Kf6なら、黒Kd8か黒Kf8、もしくは黒Kd7と上がる。これも3つ。
 動きを5つに増やすには、O君の解釈通り、(黒Ke8から)黒Ke7、黒Kf7というふたつの自殺手を加えるしかない。動きを原理的に考えれば、ということなのだろうか。もしくは僕のルールに関する認識不足か。
 ここは何度考えてもわからない。+字はむしろ理解の妨げになり、黒キングの左右への増殖もまた事を複雑にしている。
 どなたかのご示唆を待つしかない。
 
 しかし、少なくともこの図3にオポジションの基本概念が潜んでいることは確かであり、「敵キング」と書かれた対象が白キングだということも明確になった。デュシャンとハルバーシュタットは、あくまでも黒としてゲームを始めているのだ。対して白はルーセルであるというのが「55ノート」における僕の仮説だから、この図3は非常に重要なのである。
 続いてP5になると、デュシャンらははっきりと「オポジション」を指し示すようになる。
 留保付きではありながら、このP4を土台として以後の翻訳を進めていく>

55-9-2-P4-2

<オポジション>あるいはオーソドックス・オポジション

 同時に、同じファイル(訳者註:縦列)の、もしくは同じ横列の、隣り合った2つのマス目を守る方式は2つある。図2。

 
02.jpg


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<O君註:黒が図面の+マークを付けた隣り合った2つのスクエア(同じランク)を守るには、
 eキング:Kd8と待機するか、Ke7と前に出る(アタック)。
 fキング:Kg8もしくはKg7と待機するか、Ke7もしくはKf7とアタックする。
 つまり、待機か、アタックかの2つの方式がある>

<いとう註:O君の解釈(+字は右にズレている)を敷延すれば、この図2の+字はd7、e7の上にあるということになる。そして、ここでさらに“つまずき”が増す。参照例であるはずの+字のうち、d7上のそれは意味をなさないからだ。二つの黒キングの二種類の動きのうち(待機か、アタックか)、重なりがあるのはKe7のみなのである。
 では、ここで「印刷の工夫の誤り」が左にズレている可能性を考えてみよう。デュシャンらが言いたかったのは、+字をもっと右に打つパターンだったという考えである。図2だと、+字は本来e7、f7の上にあるべきだということになる。
 図1に戻って、この考え方の上に立てば、図1の+字はd7、e7、f7の上に来る。がしかし、こうなると、図1に付いた文言「3つ以上のマス目を守る方法は1つしかない」という解が成立しなくなってしまう。黒キングはd8にもf8にも動くことが出来、それぞれc7d7e7、e7f7g7というマス目と、自分のいる横列の左右のマス目を支配出来るからだ。つまり、「3つ以上のマス目を守る」ことは出来るのだが、解は2つに分裂してしまうのである。
 O君はだからこそ、「+字は右にズレている」と考えた。図2で言えばd7、e7の上にある、と。
 さて、しかしこの場合においても「アタック」という選択が理解不能になる。eキングがKe7と動くのは自殺手である。fキングがe7およびf7と「アタック」する場合も同様である。白キングによって自滅する場所に黒キングを置くことは出来ないのだ。
 では「2つある」方式とは一体なんなのか?
 ここでは暫定的に、「図2は図1の延長であり、f8の黒キングは2つある方式のうちのひとつの動きを示したものだ」と考えてみたい。すると、もうひとつは単純に黒Kd8ということになる。
 この時、2つの+字(d7、e7上)はあくまでも図1の延長として、e8に位置する黒キングが支配を続けるべき隣り合った横列(ランク)のマス目を示したと解釈されるだろう。
 くわしく言えば、例の盤面外の黒丸は図2において黒白両者に打たれている。これは新たな謎である。白番をも同時に示す意味はないからだ。
 P4はやはり手ごわい。この4ページ目は本当に難解、もしくはもっとあっさりと解釈されるべきかもしれない>

<いとう雑感:ボビー・フィッシャーの唐突な身柄拘束は(おそらく政治的取引に使われたと思われる)、この55ノート、せめて55-9のためだけにも是非解かれて欲しい。あの天才なら一読、「つまりこういうことだ」と本質を一言で表わしてしまうだろう。二十世紀初頭に各界の注目を集めたポーン・エンディング(デュシャン、ルーセルはもちろんベケットもまた御存知のようにまさに『エンド・ゲーム』という戯曲を書き、実際にデュシャンとチェスをもした)は、当時のヨーロッパの思考の真髄に触れているはずで、すなわちこの問題は我々の想像をはるかに越えた存在意義を持っているのだから>

55-9-2-p4-1

<オポジション>あるいはオーソドックス・オポジション

P4 

 本書の目的は、ポーン・エンディングにおけるキングの役割の研究である。
 キングの役割とは、一定のポーン、複数のマス目、一定の範囲のマス目の群を攻撃し、また守ることである。
 図1~4を検証していこう。
 同じランク(O君註:横の列)の3つ以上のマス目を守る方法は1つしかない。図1。

01.jpg

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<O君註:黒が図面の+マークを付けた3つのスクエア(c7,d7,e7)を守るには、Kd8とする以外ない>

<いとう註:P1で「印刷の工夫の誤りが混乱を生んでいる」と指摘し、「見た目への配慮は、問題の秘義的な側面や、論争の第一の原因をはぎとってもくれることだろう」と言った直後に、いきなりこれである。“図面の+マーク”が版ズレし(出版業界ではトンボがずれていると言う)、マス目にまたがってしまっているのだ。以後、版ズレは続く。したがって、本書こそ「印刷の工夫の誤りが混乱を生んで」いるのだ。1932年にパリで出版された他の999冊も同じ状態だろう。
 だが、デュシャンが失望をあらわしたという記録を僕は知らない。
 あたかも運搬中の『大ガラス』にヒビが入ったのを気にしなかったように、デュシャンはこの大きな印刷上のミスに無関心を貫いたように見える。
 しかし、おかげで残された僕の混乱はひどいものであった。そもそも、チェス問題にくわしくない僕にとって、この図1が白番なのか、黒番なのかさえわからなかったのだ。O君の註がHP上で発表されて初めて、僕はデュシャンとハルバーシュタットの真意を知ったのである。
 “図面の+マーク”が右にズレている、とO君は推測した。「同じランクの3つ以上のマス目を守る方法は1つ」という解から逆算して、O君は答えを出したのに違いない。
 さらに、図面の右下に付いた小さな黒丸がヒントなのだろう。白側に打たれた黒丸は、少なくともこの段階では、白が指し終えたことを示すように思われる。
 つまり、O君によれば「黒が図面の+マークを付けた3つのスクエア(c7,d7,e7)を守るには、Kd8とする以外ない」ということになる。黒キングは左のマスにひとつ(黒から見れば右にひとつ)、移動する以外ないのである(ちなみに、c7やd7の位置がわからない方は以下のページの一番下を参照したいただきたい)。
 だが、まだ留保は続く。このP4こそ、難解である。図はあと二つある。ここを乗り越えれば、我々はより深くデュシャンとハルバーシュタットの問題意識を理解することが出来るようになる。
 つまずきのP4。
 「印刷の工夫の誤りが混乱を生んでいる」P4。
 ゆっくりと進んでいこう>


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