55-9-2-P7-10,11

<オポジション>あるいはオーソドックス・オポジション 

P7

 クリティカル・スクエアは4つのカテゴリーに分けられる。


 1 “有効なスクエア”
 A. Durand の命名(「Nouvelle Regence」/パリ/1860年、「チェス終盤戦の論理的戦略」/P.12)。

 図10、11にこれを+字で示した。その特徴は次の通り。

 有効なスクエアとは、3本のメイン・ファイル(訳注:メインの縦列)上の、ポーンの2つ先以降のマス目を言う。ただし、これはポーンが2~4本目の横列に位置している場合であり、5本目以上の横列にあるポーン(D. Prezepiorka の素晴らしい規定にならえば<ボードの中央を超えたポーン>)では、すぐ前からが有効なスクエアである。A. Durand の解説にあるように(同書、P.10)、ポーンをクイーンにするために<白はここで、“有効なスクエアのひとつに”到達するべく、“狙いを定める(訳注:one object in view)”だけでよい……黒キングの役割は“すべての”有効なスクエアへの接近を妨げることである>。

 ここでは、手番にまったく依存しない有効なスクエアについて解説した。それらのマス目を占拠するだけで勝利は間違いない。

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11.jpg

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<いとう註:「ポーンをクイーンにする」という表現に注意したい。「55ノート」的に言えば、この“クイーン化”の不思議が大ガラス上部における「花嫁」に関係しているからである。
 また、白(前提として攻撃側)はどれかひとつのマス目に到達すればいいのに対し、黒(前提として防御側)はひとつでも失えば負けることにも留意しよう。遺作においてどこに視線をやってもいい鑑賞者と、しかし本当の“有効なスクエア”に侵入されてはならない制作者との関係を考えるのに、この構造は刺激的である>

<補注:「Nouvelle Regence」の「Regence」、最初のeにアクサンタギュが付く>


 

55-9-2-P7

<オポジション>あるいはオーソドックス・オポジション

P7

 図8と図9が異なるのは、なぜだろうか?

 概括的に言うと、図9の黒キングは、“白キングにAB線上でのディスタント・オポジションを許すことなく、AB線上を動くことができる”からである。そして、“この場合、正面からの攻撃(最も危険である)の可能性はない”し、側面からの攻撃(第3手、4手)も脅威にはなり得ない。

 J. Drtina と Fr. Dedrle の用語にならって、本書では守らなければならないマス目のことを“クリティカル・スクエア”(+でマークしたマス目)と呼び、また、そうしたマス目のグループの中央に引ける線を“プリンシパル・ライン”(AB)と呼ぶことにする。

 グループが3つ以上のマス目から構成されている場合、複数のプリンシパル・ライン(訳注:主要な線)が存在する。4つのマス目なら2本、5つなら3本といった具合だが、つまりプリンシパル・ゾーン(訳注・主要な面)が存することになる。

 ここまで、我々はクリティカル・スクエアへの純粋に一般的な攻撃におけるオポジションのメカニズムを研究してきたが、以降は線上に並ぶ3つのクリティカル・スクエアを作り出してしまうポーンの、異なったフォーメーションについて検証していこう。これらの典型的なフォーメーションの集合は、ポーン・エンディングにおけるオポジションの応用編を示すことになろう。

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<いとう註:すでに「55ノート」をお読みの方はお気づきの通り、「クリティカル・スクエア」(スクエアをこれまで「マス目」と訳してきたが、ここではデュシャンらの用語をそのまま使う。僕の拙劣な翻訳でのちの誰かの新しい研究の可能性をせばめるわけにはいかない)はデュシャンの遺作において、のぞき穴ともうひとつの壁の向こう側の世界である。事実、床には市松模様のリノリウムが敷いてあったのだから。
 そして、のぞく側が絶対に破ることの出来ないスペイン・カダケス産の壁(のぞき穴が付いた第一の壁)を、「プリンシパル・ライン」と考えることが出来る。
 この本の検証も終えずに「デュシャンの作品とチェスにはなんの関係もない」という者は愚かである。デュシャンの謎は暗示的でなければならないと彼らは考えており、顕在的な事柄を非論理的に無視している。つまり一方的な神格化であり、彼らにアンフラマンスなど理解出来ようはずもない。「隠された深さ」「特権的理解」のベールを彼らはデュシャンの前に引いてしまう。僕はこうした非ユーモア的でもある怠け者をデュシャン解釈界から排除するためにも、翻訳を続けたい。彼ら自称デュシャン研究者の資料的な“酷薄”は、翻訳の最後に特に明らかになるだろう。その数ページはなんとあの「大ガラス」を想起させてやまず、こちらをにやりとさせ続けるからである。それはいかにもデュシャン的なのだ。
 ではもう一度、あってしかるべき愉快な仮説を提示しておこう。
 プリンシパル・ライン(AB線)=遺作の第一の壁(作り手と鑑賞者の中央に位置することになる)。
 クリティカル・スクエア=遺作の中の世界>

<いとう註:図9の「第3手、4手」、つまり「側面からの攻撃」とは、白Kf7と白Ke7を指す。前項のデュシャンらの解説通り、白キングはe列上でのダイレクトオポジションを狙うべく近づき、実際そのオポジションを取ったのだが、黒Kd5とかわされた。黒キングはひたすら「クリティカル・スクエア」を支配し続けたのである。
 さて、ここから先、今度はポーンの位置、動きが検討される。
 そして、キングとポーンが盤面に現れ、オポジションの全体像が見えてくることになる>



55-9-2-p6-9

<オポジション>あるいはオーソドックス・オポジション

P6

 図9。
 黒番。白はここでもディスタント・ヴァーチャル・オポジションである。しかし、d4-d5-d6のいずれの征服にも有効ではない。そこで、黒はこう指す。
 1 ......    Kc5
 2 Kg7  Kd5
 3 Kf7  Ke5
 4 Ke7
 白は縦列上でダイレクト・オポジションを取ったが、まるで役に立ってはいない。なぜなら“マス目はひとつとして攻撃されていない”からだ。つまり、すでにおわかりだろうが、単独のマス目を守るためにオポジションを取る必要はないのである。黒番、以下、
 4 ......    Kd5
 5 Kd7  Kc5
 6 Ke7  Kd5!
 7 Kd7  Kc5
 8 Ke6  Kc6! =

09.jpg


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<いとう註:これほど遠く離れていてもオポジションは始まっている。
8手目の黒の手に「!」が付いているが、これはついに黒がA-B線を破って、白キングの領域に入ったことを示すと思われる。対して、黒6手目の「!」はKc6(8手目と同じなのだが)と入らず、+字を打ったマス目を支配したことへの評価だろう。続く7手目で白はd列上のダイレクト・オポジションを取るが、黒にかわされてKe6と下がらざるを得ず、ついに+字マスをすべて黒に支配された上、A-B線を破られるに至る>
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